1.理学療法士である副主任の女性Xが妊娠したので、使用者であるY生協は、女性Xを労基法65条3項による「軽易な業務」への転換を求め、Y生協も転換したが、その転換に際して、勤務先であるY生協は副主任を免じ(本件措置1)、さらに産前産後休業、育児休業終了後に復帰しても副主任任じなかった(本件措置2)。
2.女性Xは、本件措置1、2が均等法9条3項に違反するものとして、管理職(副主任)手当(月額9500円)の支払いと債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求権を行使した。第一審(平24・2・24広島地判)、控訴審(平24・7・10広島高判)はいずれも女性Xの請求を棄却した。
3.なお、本判決は、結論として控訴審判決(平24・7・29広島高判)を破棄して差戻しをしたが、再戻後の控訴審判決(平27・11・17広島高判)は、本件最高裁判決を受け、本件措置1につき、均等法9条3項違反であるとして、慰謝料100万円と副主任手当不支給額全額の全額の支払いを命じた。
Xが軽易業務への転換及び本件措置1、2により受けた有利な影響の内容や程度は明らかではない一方で、Xが本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上、本件措置1による降格は、軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず、Xの意向に反するべきであったというべきである。
Xにおいて、本件措置1による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たものとはいえず、Xにつき・・・自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできないというべきである。
本件措置1については、Y生協における業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎付ける事情の有無などの点が明らかにされない限り、・・・均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできないものというべきである。
差戻後の控訴審は、最高裁判決を受け、本件措置1につき、均等法9条3項違反であるとして、慰謝料100万円と副主任手当の全額の支払いを命じた。
均等法9条3項の規定は、同法の定める目的及び基本理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解され、女性労働者につき軽易業務への転換等を理由として不利益取扱いをすることは同項に違反して違法であり、無効であると解されるところ、本件措置1につき、これを違法、無効でないとする事由が存在しない。
Xが、リハビリ科に異動した後に副主任を免ぜられたことに異議を留保したり、育児休業明けに副主任の地位がどうなるかを尋ねなかったことについても、Xが既に副主任を免ぜられることを受け入れ、産前休暇までの間、新しい職場で働き無事出産することに専念していた・・・ことから考えれば、この事実から、Xが副主任免除に異議がなかったとまではいえず、承諾を自由意思だと認定する合理的理由が客観的に存在するとまではいえない。
Y生協には、本件措置1をなすにつき、使用者として、Xとしての母性を尊重し職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失(不法行為)、労働法上の配慮義務違反(債務不履行)があるというべきであり、その重大さも不法行為又は債務不履行として民法上の損害賠償責任を負わせるに十分な程度に達していると判断できる。
引用/厚生労働省サイト