就職は、一人の人間にとって生活の安定や社会参加を通じての生きがい等、生きていく上で非常に大切なものです。また、わが国の憲法において、「職業選択の自由」が保障されています。一方、雇用主には「採用の自由」がありますが、応募者の基本的人権を侵すことなく行われるべきです。労働者の採用選考に当たっては、人間尊重の精神が何よりも大切であり、応募者の基本的人権を尊重することが重要です。
就職差別とは、人種、性別、国籍、年齢、障がい、宗教、出身地など、応募者の本来の能力や適性とは無関係な事柄を理由に、採用選考において不利益を与えたり、不公正な扱いをすることを言います。
令和3年度において、ハローワークが受けた就職差別に関する相談のうち、応募者が「自分自身の適性・能力とは関係のない事柄を質問された」と指摘したものの約半数は、「家族に関すること」に関する質問であったことが分かっています。本人に責任のない事柄に関して質問することは、就職差別につながりかねないため、注意が必要です。また、採用において差別があった場合、精神的な苦痛を受けたことを理由に慰謝料を請求されることもあります。
出典/厚生労働省サイト
厚生労働省は、公正な採用選考の基本的な考え方として下記の2点を挙げています。
就職の機会均等の実現のために、求人条件に合致する全ての人が応募できるようにすることが大切で、例えば難病のある人やLGBT等の性的マイノリティなどの特定の人を除外しないで、求人条件に合致するすべての人が応募できるように配慮することで、企業にとっても多様な人材を確保することができ優秀な人材の獲得にもつながってくる可能性があります。
応募してきた人が「求人職種の職務を遂行するにあたり、必要となる適性や能力をもっているか」ということを基準にして採用選考を行うことで、本人の適性や能力以外のことで採用を判断し、せっかくの人材獲得を見送ることのないようしたいものです。
下記の事項についての質問や個人情報の把握は就職差別につながるおそれがありますので注意が必要です。
・本籍・出生地に関すること
・家族に関すること
・住宅状況に関すること
・生活環境・家庭環境などに関すること
・宗教に関すること
・支持政党に関することの把握
・人生観・生活信条などに関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
・身元調査などの実施
・本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用
・合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
企業は、社会において基本的人権を尊重することが求められます。近年では、CSR(社会的責任ある活動)の観点から、「人権尊重」や「差別撤廃」に向けた取り組みが特に重要視されています。
企業は、利益を得ることを目的とする経済主体である一方、社会の一員として基本的人権を尊重することが求められます。そのため、企業は同和問題を含めた人権問題に対して関心を持ち、企業内外で基本的人権が侵害されることのないよう、人権意識を高めつつ、必要な措置を講じることが必要です。
また近年、企業のCSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)の取り組み内容は、ますます企業の社会的評価に影響を及ぼすようになっています。CSRには人権尊重や差別撤廃に向けた取り組みも含まれますので、人権に関する対応を怠ると社会的な非難を招き、顧客・従業員・株主などからの信頼を失ってしまう危険性があります。