メンタルヘルスケアとは、働くすべての人が健康的に働けるよう、企業が支援することを指します。その支援は、単に問題が起きたときに対処するだけでなく、事前に予防することも大切です。そのため、職場環境を改善するための取り組みやストレスチェックなど、さまざまな方法があります。
メンタルヘルスケアは、すべての従業員に対して実施する必要があります。健康な人だけでなく、過剰なストレスを抱えている人や精神障害の症状を呈している人にも対応することが求められます。そのため、企業は、一人ひとりの従業員の状況を把握することが必要です。
厚生労働省の「職場におけるメンタルヘルス対策の現状」の調査結果では、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は半数を超えているようです。
仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの要因としては、「仕事の量」、「仕事の失敗」、「仕事の質」の回答が最も多く、次いで「対人関係」が多いようです。
一方、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合では、約4割の事業所がメンタルヘルスケアに取り組めてないという結果が出ています。
引用/厚生労働省サイト
一次予防では、ストレスを未然に防ぐための取り組みを行います。
一次予防は、ストレス要因を根源から改善することで、中長期的なメンタル不調の予防につながるため、予防の中では一番重要な取り組みになります。
職場環境の改善を中心に、具体的には、仕事量や組織形態、仕事環境や仕事方法に関するストレス要因を特定し、可能な限り改善していくことを行います。
まずは、現場の管理監督者や従業員に対して、メンタルヘルスに関する教育を行うことが重要です。管理監督者は職場改善のリーダーとして、メンタルヘルスに関する基礎知識をしっかりと身につけ、職場の問題点を把握し改善に取り組むことが求められます。また、従業員全員に自己管理の方法を学ばせること、定期的なストレスチェックを実施することで、メンタル不調の未然防止につながります。
2次予防では、早期にメンタル不調を発見し、重症化を防ぐために行われる対策を行います。メンタル不調を抱える人を見つけるためには、上司や同僚が異変に気づくことが重要です。特に管理監督者は、社員の健康を守る義務を負っており、異変を感じた際には、該当社員との対話や検診を促す必要があります。メンタルヘルス教育が不十分な場合や、多忙なプレイングマネージャーがいる場合には、勤怠データの確認によって、不自然な遅刻や欠勤、早退に気づき、早期発見につながることがあるため、人事との連携も重要です。
また対話の結果、該当社員が病気になっている場合や休職が必要な場合には、素人判断を避け、産業医もしくは医師の判断を仰ぐことも大切です。また、職場内外の保健スタッフやカウンセラー、産業医などと連携して、相談窓口を設置し、従業員が適切な支援を受けられるような体制を整備することが求められます。
3次予防では、既にメンタル不調を発症してしまった社員に対して、治療と復職後のケアを行います。休職している従業員は、不安感や焦りなどで心が乱れていることが多く、治療期間中も従業員の精神面のサポートが必要とされます。また、復職後も従業員のサポートは必要で、症状の再発を防ぐために、リハビリ出勤のサポートや、復職後の仕事内容の調整などが求められます。
休職中の従業員は、病気による不安感や、会社に迷惑をかけてしまったという罪悪感など、多くの心理的ストレスを抱えています。このため、上司や同僚、そして産業保健スタッフなどの支援が必要です。また、休職期間中に、従業員が感じる不安を和らげるためにも、定期的な面談やコミュニケーションが重要です。社員自身も、適切な治療を受け、休養することで回復の可能性が高まることを知っておくことが大切です。
復職後の社員は、再発を防ぐために、十分なケアが必要です。受け入れ側は、従業員の体調や症状に合わせた仕事の配分や、適切なフォローアップなどを行うことが求められます。特に、過度なストレスや負担のかかる仕事は、再発を招く原因となるため、受け入れ側は、従業員の状態を把握し、柔軟な対応を心がけることが重要です。
厚生労働省は、従業員のメンタルヘルスを保持・増進するための“4つのケア”を提唱し、企業がメンタルヘルス対策を進めるための指針として示しています。
4つのケアとは、セルフケア、ラインケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つから構成されており、それぞれが従業員のメンタルヘルス対策において重要な役割を果たしています。
企業が“4つのケア”を実践するためには、計画的かつ継続的な取り組みが必要不可欠です。従業員のメンタルヘルス対策は一度行えば終わりではなく、継続的な取り組みが必要です。企業は従業員の健康を守るために、メンタルヘルス対策に取り組んでいくことが求められます。
従業員が自分自身でストレスやメンタルの不調に気が付き、適切に対処することを目指した取り組みです。
従業員のセルフケアを促進するためには、適切な知識や対処法を身につけられるよう支援が必要です。研修や教材を用いて、「ストレスとメンタルヘルスに関する正しい理解」や「ストレスの対処法」など社内で共有することが重要です。
セルフケアの対象は、現場で働く従業員だけでなく、管理監督者も含めた企業で働く全員です。事業主は、管理監督者に対してのサポートも忘れずに行いましょう。
セルフケアは、自己責任の観点からも重要ですが、職場環境を改善し、従業員のストレス要因を排除することも大切です。従業員がセルフケアを実践できる環境づくりにも取り組んでいくことが必要です。
ラインケアは、管理監督者が取り組む従業員のメンタルヘルス対策です。具体的には、部下の様子を観察し異変に気付き、適切に対応すること、職場環境を把握し改善すること、そして、従業員の職場への健全な復帰を支援することが挙げられます。
ラインケアにおいては、管理監督者自身がメンタルヘルスについての知識を持ち、的確に対応することが必要不可欠です。また、部下とのコミュニケーションを円滑に行い、相談に応じることで信頼関係を築き、ストレスの軽減につなげることが重要です。
企業にいる産業医や衛生管理者、保健師などのメンタルヘルスに関する専門的なスタッフから支援を受けることによるケアです。
メンタルヘルス対策や指導、職場の環境改善に向けた助言を行います。
具体的には、「メンタルヘルス対策の実施に関する企画立案」や「従業員の健康情報の管理」「外部の機関とのネットワーク形成やその窓口」、「従業員からの相談対応」、「職場復帰への支援」などが挙げられます。
メンタルヘルス対策においては、事業場内の産業医や保健師、看護師、心理士などの産業保健スタッフによるケアも重要ですが、場合によっては、専門的な知識を持つ外部の専門家や機関の力を借りることも必要になる場合があります。
例えば、従業員のメンタルヘルス不調が深刻な状態に陥っている場合や、職場の環境やシステムが大幅に改善する必要がある場合などです。そのような場合には、専門的な支援機関に相談することで、より適切な対応策を見出すことができます。また、外部の専門家によるトレーニングやコンサルティングを受けることで、事業場内の産業保健スタッフや管理監督者のスキルアップにもつながります。