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多様な正社員

多様な正社員とは

 

多様な正社員とは、通常の「正社員」と並びながら、職務、勤務地、労働時間において一定の制限が設けられた正社員雇用の仕組みを指します。

厚生労働省の「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」では、無期雇用、フルタイム勤務、直接雇用の3要件を満たす労働者(通常の「正社員」)のうち、職務、勤務地、労働時間のいずれかが限定的である者を「多様な正社員」と位置付けています。

従来日本企業では、無期雇用で、職務や勤務地が限定されていない「正社員」と、短期契約やパートタイム契約などの「非正規雇用の労働者」との二極化が見られていました。

しかし、近年は、以下のような要因から、両者の中間的な働き方に対するニーズが高まってきています。

 

・ワーク・ライフ・バランスに対する意識が高まり、勤務地や労働時間を限定して働きたいという希望をもつ正社員が増えたこと。

・2013年に施行された改正労働契約法により、有期契約5年超過後の無期転換ルールが設けられたことにより、無期雇用契約を締結する労働者の出現が見込まれること。

・企業や労働者の間に、「職務や勤務地等が限定される正社員を、他の正社員と同じ処遇とすることは合理的ではない」という考え方が広がってきたこと。

 

厚生労働省の調査によると、約5割の企業が「多様な形態による正社員」の雇用区分を導入しており、そのうち職種限定の区分が約9割、勤務地限定の区分が約4割、労働時間限定の区分が約1~2割となっており、職種限定かつ勤務地限定の正社員など、職種、勤務地、労働時間の要素を複数組み合わせている雇用区分を導入している企業もあります。

 

多様な正社員制度の導入により、育児や介護といった家庭との両立が必要な労働者にとってはメリットがあり、企業側も多様な人材を生かすことができるため、双方にとってプラスの効果が期待されています。

 

企業側のメリット

 

●多様な正社員導入により、幅広い人材を採用できる可能性がある。

●社員のモチベーション向上につながり、生産性や業績の向上が期待できる。

●労働者との信頼関係が築け、採用や定着率が向上する可能性がある。

 

労働者側のメリット

 

●安定した雇用形態であるため、生活の安定が期待できる。

●スキルアップやキャリアアップの機会が増える可能性がある。

●待遇や福利厚生が改善され、労働者の満足度が向上する可能性がある。

 

 

限定正社員の雇用形態と特徴

 

限定正社員には、勤務地限定正社員、職務限定正社員、勤務時間限定正社員の3種類があります。それぞれの雇用形態と特徴を説明します。

 

〇勤務地限定正社員

勤務地限定正社員は、勤務する地域を限定して働く正社員です。限定される地域の範囲は企業によって異なり、「1つの事業所に勤務地を限定し、異動しない」「通勤可能な範囲内での異動がある」「都道府県を越える事業所間の異動はあるが、転居は伴わない」などがあります。転勤や長距離通勤が不可能な社員を継続勤務させたい場合や、地域に根ざした技能を継承・蓄積する人材を育成したい場合に利用されます。

 

〇職務限定正社員

職務限定正社員は、職種や仕事内容を限定して働く正社員です。担当する職務内容や仕事の範囲が明確で、生産性を上げたい企業、専門性の高いプロフェッショナル人材を育成したい企業、最適な労働者を確保したい企業などで活用されます。

 

〇勤務時間限定正社員

勤務時間限定正社員は、1日の勤務時間や働く時間帯を制限した社員です。所定労働時間が正社員よりも短い「短時間正社員」、時間外労働の制限が認められる「残業免除等正社員」、所定労働日数が正社員よりも少ない「勤務日数限定正社員」などがあります。

体調や家庭の事情で長時間働けない従業員や、ボランティアや副業などに時間を割きながら働きたい従業員のニーズに対応できる雇用形態です。

 

限定正社員のよい面

【企業側にとってよい面】

 

・優秀な人材の確保・定着促進

限定正社員は、従業員一人ひとりの事情に合わせた柔軟な働き方が可能になるため、育児や介護といった家庭の事情による制約がある優秀な人材の獲得・確保につながります。また、離職防止にも繋がるため、従業員の定着率の向上が期待できます。

 

・愛着心の向上やモチベーションアップ

限定正社員は、家族やプライベートの時間を大切にすることができるため、従業員のワークライフバランスが改善されます。その結果、仕事に対するモチベーションが向上し、会社に対する愛着心が高まることが期待されます。

 

・地域に根ざしたサービスの展開

限定正社員の採用によって、その地域ならではのサービスを提供することが可能となります。地元のニーズに合わせたサービスを展開することで、地元顧客や固定客の確保が期待できます。

 

・技能の蓄積や承継、人材育成

限定正社員は、非正規雇用者の受け皿として、技能の蓄積や承継、人材育成が可能です。企業の理念や技術、企業精神を継承する上でも有効な手段となります。

 

【企業側にとっての悪い面】

・待遇のバランスが難しい

正社員と限定正社員の待遇を等しく設定する場合、正社員は、限定正社員の残業や転勤がないことに不満を感じる可能性があります。

逆に、待遇に大きな差があると、限定正社員は正社員とほぼ同じ条件で働いているにも関わらず、不満を抱くことがあります。

限定正社員制度を導入する際には、正社員と限定正社員の待遇を公平にするために、慎重に考慮し、両者が納得できる働きやすい環境を整える必要があります。

 

【労働者側にとってのよい面】

 

・自身のライフスタイルに合わせた働き方ができる

フレックスタイムやテレワークなど多様な働き方ができる正社員制度が導入されることで、自身のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方ができるようになります。

 

・待遇の改善が期待できる

正社員として採用されることで、福利厚生や社会保険などの待遇が改善され、安定した雇用を得ることができます。

 

・キャリアアップの機会が増える

多様な正社員制度の導入によって、社員の育成やキャリアアップの機会が増えることが期待できます。正社員としてのスキルアップや経験を積み、将来的には管理職や幹部候補としてのキャリアアップも可能です。

 

・職場環境が改善される

多様な正社員制度の導入により、社員のモチベーションアップや働きやすさが改善されることが期待できます。また、組織全体の多様性が増し、働く環境もより多様性に富んだものになります。

 

・雇用の安定性が高まる

正社員としての採用が増えることで、雇用の安定性が高まり、人材の定着に期待ができます。

 

【労働者側にとっての悪い面】

 

限定正社員制度にはいくつかの課題も存在します。例えば、限定正社員には通常の正社員と比べて、収入や福利厚生の面で不利な条件があることがあります。また、限定正社員という形態が、長期的なキャリアアップにつながるのか、その点についての懸念も指摘されています。

・従来の雇用形態に比べて、自己責任が増し、自己管理が求められる場合がある。

例えば、自分の働き方やスキルアップに関して自己判断が求められる場合があります。

 

・給与が低く、待遇面で不利になる場合がある。

正社員に比べて、非正規雇用労働者の給与が低いことが多く、待遇面で不利になることがあります。

 

・フレックスタイムやテレワークなど、労働時間の柔軟性によって、過剰な仕事負担に陥る場合がある。

自分で労働時間を調整することができる反面、自己管理が不十分な場合、過剰な仕事負担に陥る可能性があります。

 


現在、多様な正社員制度はまだ広く普及しておらず、導入している企業もごく一部に限られます。今後は、労働者の働き方の多様性や企業の雇用形態の変化に応じて、多様な正社員制度の改善や拡充が求められることでしょう。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、個人のニーズに合わせた柔軟な働き方や生活スタイルが求められるようになりました。生産性の向上や働きがいのある職場づくりには、多様な人材の参画が必要です。多様な働き方によって、企業はより多様性のある人材を集め、組織の成長につなげることができます。

 

 

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