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固定残業代の基礎知識

固定残業代とは

固定残業代とは、企業があらかじめ一定時間の残業を見込んで、実際の残業時間に関係なく一定の残業代を支払う制度のことです。

この制度は「みなし残業代」とも呼ばれています。

労働基準法では、「1日の労働時間は8時間以内、1週間の労働時間は40時間以内」と定められており、基本的には残業することができません。

時間外労働によって残業代が発生するのは例外的なケースであり、時間外労働を行わせるためには36協定の締結などの手続きが義務付けられています。

固定残業代への正しい理解のない企業において、本来支払われるべき残業代を支払わないケースもありますので、制度を適正に理解した上で運用をしなければなりません。

 

固定残業代導入のメリット

1.人件費を把握しやすい

固定残業代制度を導入することで、会社は毎月の残業代を把握しやすくなります。

従業員ごとに異なる残業時間や残業代を管理するのは複雑な作業ですが、固定残業代制度では、あらかじめ定められた固定残業時間と固定残業代の基準に従って計算されるため、人件費予算の策定が楽になります。これにより、予想外の人件費の変動や予算の乱れを避けることができます。

 

2.無駄な残業を減らし生産性を向上させる

残業時間に応じて残業代を支給する方法では、残業をすることで残業代が増えるため、労働者にとっては長時間の残業をすることが給与の増加につながるというインセンティブがあり、無駄な残業や効率の低い労働が生じることがあります。

固定残業代制度では、事前に定められた固定残業時間と固定残業代が給与に含まれるため、労働者にとって残業時間を増やすことで給与が上がるというインセンティブはなくなります。これにより、無駄な残業時間の削減や業務の効率化が促され、生産性の向上につながると期待されます。

 

固定残業代導入のデメリット

1.トラブルになりやすい

固定残業代制度は、規定の残業時間に対して固定の賃金を支払う制度ですが、規定の残業時間を超えた場合の残業時間に対しては賃金を支払わないと違法となります。

また、求人票の記載内容を求職者によく見せようとするために、基本給に固定残業代を上乗せした賃金を表示し、固定残業代が含まれていることを明記しない場合、労働者との間でトラブルが生じる可能性もあります。

固定残業代に関しては、企業と労働者の間でトラブルが生じやすく、訴訟にまで発展することもありますので注意が必要です。

 

2.求職者にマイナスイメージを持たれやすい

固定残業代制度を導入している会社がブラック企業であると誤解されることがあります。

月にどれだけ働いても一定の残業代を支給するだけで、それ以上は支給されないなどのイメージを持たれやすいというデメリットがあります。

固定残業代制度は、正しい理解の下導入運用することで、企業にとっても労働者にとってもメリットも多くあるため、固定残業代制度に関する情報や運用方法を従業員に提供し、正確な理解を深めるよう努めることが求められます。

 

3.ムダな人件費発生の可能性

固定残業代制度は、従業員の実際の残業時間が規定の上限に達しなくても、残業代を含んだ給与を支払う義務があります。

残業があまり発生しない企業では、ムダな人件費が多く発生する可能性があります。

 

固定残業代の計算方法

固定残業代の計算方法は、以下のとおりです。

 

固定残業代=1時間あたりの賃金額(※1)×固定残業時間×割増率

 

※1「1時間あたりの賃金額」はその月の給与総額÷月平均所定労働時間(※2)で算出します。

※2「月平均所定労働時間」は、「1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間×12ヵ月」で算出します。

 

固定残業代は、1ヵ月の時間外労働が45時間を超えないように設定する必要があります。

また、時間外労働に対する割増賃金の割増率は、通常の労働時間または労働日の賃金の25%以上とすることが義務付けられています。

 

固定残業代導入のポイント

1.労働契約における固定残業代制度の明示

固定残業代制度が適用されるためには、労働者と会社の間で合意が成立していることが必要不可欠です。そのためには、就業規則や賃金規程、労働契約などの労働契約書に明確に固定残業代制度に関する規定が定められていることが重要です。

例えば、就業規則に固定残業代制度についての記載がある場合でも、労働者にその内容が周知されていない場合は、合意が成立していないと見なされることがありますので、注意が必要です。

 

2.固定給と固定残業代の明確な区分

固定残業代制度が適法とされるためには、固定残業代の金額とそれに対応する時間数が明確に区分されていることが求められます。

裁判所は、固定残業代の金額だけが定められており、具体的な時間数が明示されていない場合には、固定残業代制度は無効と判断しています。

また固定残業代として支給される残業代は、月45時間までの残業分と定められている必要があり、月45時間を超える固定残業代制度は無効とされています。

 

3.超過残業に対する割増賃金の支払い義務

固定残業代制度についてよくある誤解は、「固定残業代を導入すれば労働時間の管理が不要になる」という点です。

実際には、固定残業代制度は一定の時間分の残業代を固定で支払う制度ですが、その時間を超えた場合には、労働基準法に基づいて定められた割増賃金を支払う義務があります。

したがって、会社は労働者の残業時間を適切に管理し、固定残業代の制度で定められた時間を超えて働いている場合には、超過分の賃金を正しく計算し支払う必要があります。