ジョブ型雇用とは、企業が必要とする職務に対して、適切なスキルと経験を持つ人材を採用する雇用方法です。
ジョブ型雇用を従来の新卒採用と比較すると、新卒採用では事前に職務が決まっていないため、入社後に導入研修を行い、その結果に基づいて適切な部署に配属するメンバーシップ型雇用が主流でした。
しかし、メンバーシップ型雇用では、本人の意向とは異なる職種に配属され、モチベーションが低下することもあります。ただし、本人自身が気づいていなかった能力が開花する可能性もあるでしょう。
企業の周囲の環境は急速に変化しており、デジタル技術などの専門的な人材を迅速に採用する必要性が高まっており、ジョブ型雇用が注目されています。
日本企業の雇用制度は、従来「メンバーシップ型雇用」と呼ばれるジョブ型雇用とは対照的な雇用制度を採用してきました。
メンバーシップ型雇用制度では、主に新卒者を一括採用し、採用時に明確な職務を提示せず、研修やジョブローテーションを通じて経験とスキルを身につけるしくみです。
ジョブ型雇用が「仕事に人をつける」のに対し、メンバーシップ型雇用は「人に仕事をつける」というイメージで、メンバーシップ型雇用は、まずは企業に所属することを最優先し、将来性や現在の業務状況などを考慮しながら、人に仕事をつけるという考え方になります。
長期間にわたって企業に在籍し、社内研修やOJTを通じて徐々にスキルや専門性を身につけ、最終的に従業員の成果を最大化することで企業に利益をもたらすしくみになります。
近年、日本でもジョブ型雇用が注目されている背景には、以下のような社会的な要因があります。
経団連会長が、2018年から2019年にかけて、従来のメンバーシップ型雇用の手法の限界を指摘し、日本国内でもジョブ型雇用を推進する機運が高まりました。
経営環境の変化や競争力の向上を目指す中で、ジョブ型雇用は迅速な対応力を持った組織づくりに貢献すると期待され、企業の中で特定の業務に必要なスキルや経験を持った人材を積極的に採用する動きが強まりました。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、日本でも在宅勤務やテレワークが急速に広まり、新たな働き方の有用性がアフターコロナ時代を見据えて証明されつつあります。
在宅勤務やテレワークの特徴の一つは、個々の社員の業務における生産性を明確に評価しやすいという点です。働き方の見直しによって、業務の生産性向上を目指す中で、適材適所という流れが強まっていると考えられ、ジョブ型雇用が注目されるようになりました。
企業は、テレワークや在宅勤務といった柔軟な働き方に合わせて、必要な職務に適したスキルや経験を持った人材を採用することで、生産性や業績の向上を図っていくことが求められています。
専門分野に関連する職種を採用するためには、求めるスキルや仕事内容を明確にし、細かく特化された求人を行うことが効果的です。
特にIT関連など、高度な専門性を要する職種では、人材不足が長期間にわたって続いているため、スキルや業務内容に焦点を当てたジョブ型雇用の手法が適しているとの認識が広まってきています。
ジョブ型雇用は、特定の業務に特化した人材を選定し、即戦力として活躍させることで、企業の成果を最大化する手法として注目されています。
ジョブ型雇用の導入には多くの利点がありますが、同時に欠点も存在するため、両者を考慮しながら導入を検討することが重要です。
ジョブ型雇用では、求める職務に適したスキルや経験を持った人材を採用することができます。これにより、業務において必要な専門知識や能力を持った人材を獲得し、高品質な業務遂行が可能となります。また、技術の進化に追いつくために必要な専門性を持った人材を迅速に採用することができるため、企業の競争力の向上にもつながります。
ジョブ型雇用では、社員の業績や成果に基づいて評価・報酬を適正に行うことができます。業務での成果が明確に可視化されるため、正当な評価と報酬の仕組みを導入することができます。これにより、優れた業績を上げた社員は公平に評価され、モチベーションややりがいの向上につながります。同時に、成果を上げていない社員には改善の機会を与えることもできます。
ジョブ型雇用の導入により、企業はスキルや技術を持った優秀な人材を確保し、業務での成果に応じた公正な評価・報酬を行うことができます。これにより、企業のパフォーマンス向上や競争力の強化に寄与することが期待されます。
ジョブ型雇用では、従業員が個々の職務に応じて雇用されるため、他の企業がより好条件を提供する場合、社員が転職する可能性があります。
特に、高い専門性やスキルを持つ人材は市場での需要が高く、競争が激しいため、企業は自社の魅力や福利厚生の充実などで人材の定着を図る必要があります。
ジョブ型雇用では、各職務に特化した人材配置が行われるため、ある部署で急に人手が不足した場合、他の部署からの異動が制約される場合があります。
これにより、業務の円滑な運営や臨機応変な人員調整が困難になる可能性があります。適切な人材配置と柔軟な異動の促進が求められます。
ジョブ型雇用に移行する際には、従来のメンバーシップ型雇用とは異なる給与体系や社員の評価項目などを見直す必要があります。
ジョブ型雇用では、業績や成果に基づいた評価や報酬体系が求められます。このため、企業は組織全体の方針や制度を見直し、変革に対応する必要があります。
まず最初に、ジョブ型雇用の要素を取り入れるべき職務を検討します。組織内で業務の特性やニーズを分析し、特に成果やスキルに基づいて明確に評価可能な職務を選定します。効果的なジョブ型雇用の適用範囲を明確化することが重要です。
次に、選定された職務に対して職務記述書を作成します。
職務記述書は、その職務の責任範囲、役割、業務内容、必要なスキルや資格などを明確に記載するものです。ジョブ型雇用では、職務記述書に基づいて従業員の適性やパフォーマンスを評価するため、具体的で明確な記述が求められます。
ジョブ型雇用では、職務の成果や貢献度に応じた賃金設計が重要です。
職務記述書を基に、職務の難易度や責任の程度、業績評価の要素などを考慮して、公正で透明性のある賃金設計を行います。
成果に応じた報酬や昇給制度、ボーナスの設定などを検討し、従業員にとって公平な報酬体系を構築します。
ジョブ型雇用導入後は、効果的な運用や評価体系の確立、従業員とのコミュニケーションやフィードバックの強化なども重要な要素となります。組織全体の理解と支援を得ながら、ジョブ型雇用を適切に導入し、成果を最大化することが求められます。