カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)は、顧客や取引先などによる言動が労働者の就業環境に悪影響を及ぼす深刻な問題です。厚生労働省は2024年11月26日に「カスハラ」の定義を示し、企業に対策を義務付ける方針案を発表しました。今回は、カスハラの定義、具体例、そして企業が取るべき対策について解説します。
目次
厚生労働省が示した「カスハラ」の定義は、以下の3つの要素をすべて満たすものとしています。
1.顧客や取引先、施設利用者、利害関係者が行うこと
「顧客や取引先」だけでなく、施設利用者やその近隣住民も含まれます。具体的には、駅、病院、学校、公共施設などの利用者や周辺住民も対象になります。
2.社会通念上相当な範囲を超えた言動
契約内容に照らして不適切な要求や、手段や態様が過剰である場合が該当します。たとえば、暴言や過剰な要求がこれにあたります。
3.労働者の就業環境が害されること
身体的、精神的に苦痛を受けることで労働者が能力を発揮できなくなるなど、看過できない影響を及ぼす場合です。
ある不動産会社で働いていた男性は、賃貸物件のオーナーから「土下座をしろ」「畳をなめろ」などの屈辱的な要求を受けました。このような要求は社会通念上の相当な範囲を超えており、明確なカスハラに該当します。
「お前のせいで損害を被った」と大声で威嚇したり、「会社をつぶしてやる」と脅迫する言動もカスハラにあたります。こうしたケースでは、労働者が精神的なダメージを受け、業務遂行が困難になることが少なくありません。
営業時間外に対応を強要したり、不可能な作業を押し付けることもカスハラに該当します。これらの要求は、従業員の身体的・精神的負担を増大させ、業務に支障をきたします。
厚生労働省の方針案では、企業が講ずるべき措置として、会社の方針を明確化して周知・啓発を行い労働者からの相談に応じて適切に対応するための体制の整備などをあげています。
企業は、カスハラに対する明確な対応方針を策定し、全従業員に周知する必要があります。具体的には、「暴言や不当な要求には応じない」「一定の基準を超える場合には対応を中断する」などの基準を設定し、従業員が適切に対応できるようサポートします。
カスハラの被害を受けた従業員が速やかに相談できる窓口を設置します。また、相談があった際には迅速かつ適切に対応するための体制を整備することが重要です。
従業員がカスハラに遭遇した際、適切に対処できるよう教育プログラムを導入します。具体的には、対応マニュアルの作成やロールプレイング研修などを実施します。
企業内部で解決が難しい場合、外部の専門機関や法律相談窓口を活用することも有効です。
厚生労働省は、すべての顧客からのクレームがカスハラに該当するわけではないことにも言及しています。顧客の要望が社会通念上、相当な範囲内である場合は「正当なクレーム」とされます。この区別を明確にすることが、企業にとって重要な課題です。
カスハラは従業員のメンタルヘルスやモチベーション、会社の生産性に関わる大きな問題です。現在は法の制定前ではありますが、企業の健全な運営や成長のためにも、カスハラ対策はなるべく早く取り組むべき事項です。
厚労省のウェブサイトにはカスハラ対策の他社事例が公開されています。また、カスタマーハラスメント対策マニュアルなどもございます。
早めに対策を進め、労働者が安心して働ける環境を整えることで、従業員の健康を守るだけでなく、企業全体の健全な発展につながるものと考えております。
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